心と味


50年和食の職人をやっていたと言う
お爺ちゃんが来店してくれました

彼が言うには、僕のお店のように料理人が目の前にいるのを
「さらし」と言って、すごく大変な業態なんだそうだ

若い夫婦とその母親そしてお爺ちゃんの4人の来店で
みんなフルコースの注文だったので
みんな同じ量は食べられないだろうと思い
たくさん食べられない方はボリュームを抑えて出しましょうか?
と聞いてみると、案の定お爺ちゃんは殆ど食べないので
少しで良いとの事だったので、その分を若い方にまわす事にして

料理を出し始め、料理を一口食べてから
彼は色んな話をしてくれた


自分は観光地の旅館で板前をやっていたから
常連さんを相手にするような仕事じゃないから
いつも同じ料理を作っていたんだ
当然お客さんの前には出ないし、料理人なんて短気なもんだから
後輩を怒鳴り散らし、仲居さんにも
えばった態度しかとった事が無かった


「知ってるかい、怒りながら作るとよ
料理は塩っ辛くなっちまうんだよ」

「客の顔も見ないで料理して、同じもんばっかり作って
それで修行したなんて、本当は言えねえんじゃねえかって思うんだよ」

そして最後は


「美味しかったよ」とほんの少し食べ残して
笑顔で帰られました


同席していた娘さんが
「こんなに食べたお父さんは久しぶりに見たわ
沢山お話できて良かったわね」
そうやって、とても優しい顔で父親を見つめていたのが
凄く素敵で印象的でした


当然色んな料理のスタイルがあるので
彼の思いや葛藤も僕は否定しない
同じ物を作り続ける事で、研ぎ澄まされるのが技術だ


僕が、お爺さんの台詞の中で
一番印象に残ったのは
「怒りながら作ると料理が塩辛くなる」


心と味は連動する


嫌々作ったり、怒りながら作れば
何処かにその気持ちが反映される
だから僕は楽しく仕事することを
一番重視している
リラックスして自分が食べたい料理を作るのが
一番の贅沢だと思うからだ

上手な料理を作るのは、紛れも無く技術のなせる業だ


だが、楽しい食事を提供するには
それだけでは不可能だ


自分の売りたい料理や食材、技術の前に
お客さんを見てみる、どうやって楽しみたいのか聞いみる  

主役はプロの自分じゃなくて、目の前にいるお腹のすいた人

そうやって自分の仕事を楽しんでいけば

きっとこんな素敵な人生に沢山触れ合えるのかも知れない